荷物をすべて運び出し、がらんどうになった部屋の真ん中に立ち尽くす。壁に残ったポスターの跡や、床の小さな傷一つ一つに、ここで過ごした日々の記憶が蘇る。新生活への期待と、この場所を去る寂しさが入り混じった、不思議な気持ち。そんな感傷に浸っていた私のポケットの中で、冷たい感触が一つだけ。本来なら、ここには二つの感触があるはずだった。退去を前に、私はこの部屋の鍵を一本、なくしてしまっていた。それは、私の数年間の暮らしの中で、唯一の、そして最後にしてしまった失敗だった。たった一本の、小さな金属の塊。しかし、それは単なる物ではありませんでした。この部屋の安全を守り、私に安息の場所を与えてくれた、信頼の証。それを管理しきれなかったという事実は、ずしりと重く私の心にのしかかりました。管理会社に正直に報告した時、電話の向こうの担当者は事務的な口調で鍵交換費用の話をしました。その数万円という金額は、もちろん痛い出費です。しかし、それ以上に、私は自分の責任感の欠如を突きつけられたような気がして、情けなくなりました。社会人として、自分の持ち物や交わした契約に対して責任を持つのは当たり前のことです。私はその当たり前を、この部屋を出ていく最後の最後で、怠ってしまったのです。敷金から差し引かれるその費用は、私がこの部屋に残していく最後の爪痕であり、そして社会の厳しさを学ぶための授業料なのだと思いました。このがらんどうの部屋は、私にたくさんの思い出をくれましたが、それと同時に、一本のなくなった鍵を通じて、大人としての責任の重さという、大切な教訓も与えてくれました。この小さな失敗を胸に刻み、次の暮らしでは、もっと一つ一つの物事を丁寧に、そして責任を持って扱っていこう。私はポケットの中の最後の一本を強く握りしめ、静かに部屋のドアを閉めました。
がらんどうの部屋と一本の鍵が教えてくれたこと