賃貸物件の鍵を一本なくしてしまった時、多くの人が最初に考えるのは「退去の時まで黙っていよう」ということかもしれません。引越し直前の余計なトラブルは避けたいし、もしかしたらひょっこり出てくるかもしれない。その気持ちはよくわかります。しかし、その判断はかえって事態を悪化させる可能性があります。トラブルを最小限に抑え、円満に退去するための最善手は、「紛失に気づいた時点ですぐに管理会社や大家さんに報告する」ことです。なぜ正直に、そして迅速に報告することが重要なのでしょうか。第一に、誠実な対応は管理会社や大家さんとの信頼関係を損なわないからです。人間誰しもうっかりミスはするものです。それを隠さずに正直に報告し、謝罪する姿勢は、相手に悪い印象を与えません。逆に、退去立ち会いの土壇場になって「実はなくしました」と告げるのは、意図的に隠していたと受け取られかねず、心証を悪くします。第二に、防犯上のリスク管理という側面があります。もし紛失した鍵が悪用され、空き巣などの犯罪が発生してしまった場合、鍵をなくしたことを報告せずに放置していたあなたの責任が問われる可能性もゼロではありません。速やかに報告することで、管理会社側も注意を払うことができ、万が一の事態に備えることができます。さらに、事前に報告しておけば、管理会社も鍵交換の手配を早めに行うことができ、退去の手続き自体がスムーズに進むというメリットもあります。また、意外と知られていませんが、自身が加入している火災保険の契約内容によっては、「鍵の紛失や盗難による交換費用」が補償の対象となっている場合があります。保険証券を確認し、保険会社に問い合わせてみる価値は十分にあります。隠し通そうとすることは、百害あって一利なし。鍵の紛失に気づいたら、深呼吸をして、まずは一本電話を入れる。その勇気が、結果的にあなた自身を守ることにつながるのです。