玄関引き戸は、日本の住宅に広く普及している一方で、その防犯対策が見過ごされがちです。特に古いタイプの引き戸には、現在の基準では防犯性が低いと言わざるを得ない鍵が取り付けられているケースが少なくありません。家族の安全な暮らしを守るためには、どのような視点で鍵を選び、交換すれば良いのでしょうか。まず、引き戸の防犯性を飛躍的に高める上で最も重要なのが、ピッキングに強い鍵を選ぶことです。従来型のギザギザした鍵(ディスクシリンダーやピンシリンダー)は、熟練した空き巣にかかれば短時間で解錠されてしまう危険性があります。これを、鍵の表面に大きさや深さの異なる複数のくぼみが彫られた「ディンプルキー」に交換するだけで、不正解錠の難易度は格段に上がります。内部のピン構造が非常に複雑なため、ピッキングによる侵入を効果的に防ぐことができます。次に注目すべきは、施錠の方式です。引き戸は構造上、バールなどの工具でこじ開けられやすいという弱点があります。この対策として非常に有効なのが、施錠すると鎌状のフック(デッドボルト)が飛び出して受け金具にがっちりとかみ合う「鎌錠」です。この鎌がストッパーの役割を果たし、扉を無理やり開けようとする力に強く抵抗します。さらに万全を期すなら、「ワンドアツーロック」の考え方を引き戸にも導入することです。扉の中央で合わさる部分の「召あわせ錠」に加えて、扉の端と柱(戸枠)を固定する「戸先錠」を追加で設置するのです。これにより施錠箇所が二つになり、侵入にかかる時間を大幅に長引かせることができます。空き巣は侵入に五分以上かかると諦める確率が高いと言われており、この時間稼ぎが非常に重要になります。また、選ぶ際には、国が定めた防犯性能試験に合格したことを示す「CPマーク」が付いている製品かどうかも、信頼性の高い指標となります。これらのポイントを踏まえ、ご自宅の状況と予算に合わせて最適な鍵を選ぶことが、安心できる住環境づくりの第一歩です。